[コラム]書籍「遊びが学びに欠かせないわけ〜自立した学び手を育てる」のご紹介4(代表理事 安田光一)
なぜ、遊びが学びに欠かせないのでしょうか?この本からそのわけを探しましょう。おもしろ科学たんけん工房も遊びを通じて学ぶ体験こそ一番大切だと考えています。今回は、第6章・第7章・第8章を紹介します。(安田)
第6章では「インドで見る子どもたちの自己教育能力」という副題がついています。1999年、当時インドでテクノロジー系企業の科学部門の責任者だったスガタ・ミトラが行った魅力的な実験を紹介しています。ミトラはコンピューターを建物の外壁に置き、スイッチをつけっぱなしにして、何も説明せずに集まった子供たちにそれで遊んでいいと伝えました。建物のあった地域は指折りの貧しい地域で、ほとんどの子どもたちは学校には行っておらず、読み書きもできず、コンピューターを見るのも初めてでした。
その結果は驚くべきものでした。子どもたちは3か月後にはそのコンピューターをすっかり使いこなすようになっていたのです。他の地域でも同じ実験を繰り返して、同様の結果を得ました。どこでも子どもたちは集ってきて装置を探り 遊び始めて、子どもたちどうし情報を交換し合う以外はなんの助けも必要とせず、それを使いこなすおもしろい方法を発見するのです。
「好奇心」「遊び心」そして「社会性」ミトラの実験は、人が生まれながら持っているこの三つの本質的な性質によって、自ら学習する能力が発揮されることを証明しています。この三つの性質を抑制することさえしなければ、人は驚くほどのパワーで自ら学習し自分を教育する能力を持っているのです。ピーター・グレイはこの三つの性質について詳しく解説しています。それらを紹介できるだけの紙幅がありませんが、これこそこの本の核心です。
第7章では 遊びの持つ「パワー」を心理学の実験結果や諸研究を引用して、言及し、それを妨げるのは何か?を問いかけています。
【遊びのパワー・4つの結論】(多数の実験結果)
★いい結果を出すようにという圧力は、新しい学びを妨げる。
★創造的になるように求める圧力は、創造性を妨げる。
★遊び心を誘導すると創造性や洞察のある問題解決力が高まる。
★遊び心の心理状態が、年少者でも論理的な問題を解くのを可能にする。
しかし、そもそも「遊び」とは何か? 改めて問いかけてみると、答えは簡単ではありません。遊びについて深く考えるという項で、著者は、いくつかの観点から遊びについて深く考えています。遊びを定義することは容易ではありません。しかしながら、それを試みることは有意義であるとして、遊びのもつ特徴を著者は次の5つに要約し、詳細に解説しています。
1.遊びは、自己選択的で自主的な活動。
2.遊びは、結果よりもその過程が大事にされる活動。
3.遊びの規則は参加者のアイデアによって導かれる。
4.遊びは想像的・空想的で、現実から解放された活動。
5.遊びは能動的で、集中的で しかもストレスのない状態で行なわれるもの。
第8章では 社会的・感情的な発達に果たす遊びの役割について、詳しく取り上げています。
★遊びとしてするスポーツから得られるもの
典型的な「草野球」から 子どもたちが得られるもの。それは、「よいプレーをして、楽しむことの方が勝つことよりもはるかに重要だということである」という指摘があります。
★ごっこ遊びから得られる教訓
では、空想的な役割をお互いが演じて遊ぶ中で、自分を主張し、どのように交渉し、また妥協するかといったことを学んでいることが紹介されます。
★ホロコーストにおける子どもの遊び
★「危ない」遊びの価値
など、遊びがもたらす社会的適応性や、情緒的な発達に対する効用が詳しく述べられています。そのような遊びが少なくなってきている現代社会のマイナス面として、著者 ピーター・グレイは、こう指摘しています。
●共感応力の低下と自己中心主義の増大
1955年ごろ以降の子どもたちの自由な遊びの低下は、不安、落ち込み、無力感の継続的な上昇をもたらしています。同時に、自己中心主義の増大と共感応力の低下も明らかになっています。
⇒ [コラム]書籍「遊びが学びに欠かせないわけ〜自立した学び手を育てる」のご紹介1
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