[コラム]書籍「遊びが学びに欠かせないわけ〜自立した学び手を育てる」のご紹介5(代表理事 安田光一)

第5章はサドベリー・バレーの紹介です。1960年代初頭、ダニエル・グリーンバーグはまだ若い大学教授でした。彼は学生たちの受け身な姿勢が気になって仕方がありませんでした。色々考えた末、彼は教授を辞任し、教育のあり方についてじっくり考え書くために、妻のハナと一緒にマサチューセッツ州のサドベリー・バレーの「荒野」に移り住みました。

昔から、よく学び、よく遊べといわれます。そして、しっかり勉強しなさいともいわれます。でも、学びと、遊びと、勉強が見事な形で一体化した「世界一素適な学校」が現実に存在するのです。ピーター・グレイは登校拒否をした自分の息子をこの学校に入れました。第5章はその紹介です。

教育機関としての学校
このサドベリー・バレーは、教育機関としてまともに機能しているのだろうか? ピーター・グレイは、一人息子を入学させた親としての関心事でもあったことと、研究者としての学術的な好奇心から、サドベリー・バレーの卒業生たちの系統だった追跡調査を行いました。調査はアンケート方式で行いました。その結果は、ピーター・グレイにとって十分満足のゆくものでした。

『全米教育ジャーナル』に掲載された調査結果は、学校教育機関としてとてもよく機能しているということでした。高等教育に進んだ卒業生(回答者の75%)は自分が望んだ大学等に入学する上でも、入学後の学業でも特に苦労した経験はないと答えていました。アンケート調査の回答者のほとんどは、サドベリー・バレーに通ったことはその後の高等教育や仕事にとって有利に働いていると答えたのです。

本当に民主的な学校 (自由な学びの場)
1968年に、グリーンバーグは奥さんのハナと共に、本当に民主的な学校を設立し、サドベリー・バレー・スクールと名付けました。ピーター・グレイは言います。サドベリー・バレーを思い描くには、伝統的な「学校」というイメージをすべて脇に置く必要があります。サドベリー・バレーは、普通の公立学校はもとより、伝統的な学校を進歩させたと言われるどの学校とも違います。

モンテッソーリ・スクールでも、シュタイナースクールでも、デューイ・スクールでもありません。これらの学校では、伝統的な学校よりも子どもが自然な形で学ぶ方法を使っているかもしれませんが、教師がすべてを取り仕切っています。それらの学校の教師は事前に計画されたスケジュールに沿って、決められたカリキュラムを子どもたちに学ばせようと努力しています。そしてその過程では生徒たちを評価しています。サドベリー・バレーでは全く違うのです。この学校を理解するには、次の考えから出発する必要があります。「大人は子どもの教育をコントロールしない。子どもは自分自身を教育する」

この学校の教育哲学の大前提は「一人ひとりの生徒は自分の教育に責任がある」というものです。学校はカリキュラムを設定しません。テストもランク付けも評価もしません。サドベリー・バレーは学校だと思い込んでいる訪問者が授業のある時間に到着したら、自分は休み時間に到着したのだと思うことでしょう。

その人は建物の外では、芝生で昼食を食べているところ、水車池で魚を釣っているところ、自転車や一輪車にのって遊んでいるところを見るかもしれません。建物の中では、ビデオゲームをしているところ、ギターを弾きながら作曲をしているところ、政治について議論しているところ、本を自分で読んでいるか、年少者たちに読み聞かせをしているところ、コンピュータープログラミングをしているところなどを見るかもしれません。

児童・生徒は自分自身の興味と関心に従って、自由に時間を過ごしているからです。サドベリー・バレーは、従来の学校とはほとんど真逆に運営されています。それは完全なる民主的コミュニティです。そこで生徒たちは持続的に「自由」を楽しみ民主的な市民と切り離せない「責任」を練習し続けます。そこは生徒たちが自分の教育についてすべての責任を負っている所です。

【参考紹介】
世界一素適な学校 サドベリー・バレー物語
ダニエル・グリーンバーグ著 大沼安史訳
改訂新版 2019年3月15日 第1冊発行
緑風出版 定価2.000円+税
この本はサドベリー・バレー校の設置者であるグリーンバーグ自身による紹介本です。このスクールの実際の姿を、たくさんのエピソードを通して知ることができます。