▶幼児期に育つ「科学する心」 2021.12.8 島田 祥生

「科学する心」をノーベル賞受賞者の5人に聞いたインタビューをまとめた本「幼児期に育つ『科学する心』」を読んで印象に残ったポイントをご紹介します。

■ 江崎玲於奈教授
科学教育が本当に大切な時期は10代だと思うのです。子どもの時期は大人の言うことを聞いてその通りにする「他律的=Heteronomy」です。10歳で他者を批判する心が芽生えてくる。それは、自我の目覚めでもあります。これは「自律的=Autonomy」ということです。ここに至って探求心が生じるのです。特に13歳から19歳までの7年間がとても重要。他の時期と違って、心身共に成長が激しい時期です。この期間で人間の価値や個性が決まります。

教育には2種類あって、受動的な「教わる教育」と、能動的な「自ら学ぶ教育」です。サイエンスは、自ら学ぶことによって初めて理解されるのです。教育の中で、おもしろく実験して見せるだけでは、科学ではありません。科学の成果の羅列だけでも意味がありません。

■ 小柴昌俊教授
子どもたちへ科学をどのように教えるかというのは、本当に私にとっても難しい問題です。例えば、天文教室にしても、普通やっているのは何台かの望遠鏡を用意して、これがシリウスだと言ってのぞかせる。そして、次から次へと天体を見せていく。でも、それだけではだめだと思うのですね。

今年の夏に、ちょっと違った天体観測の会を開きました。そこでは、「何座の何という星を見つけよう」と、天球儀を確認させながら望遠鏡を自分で操作させました。子どもたちが自分でやってみて、その星を見つけた喜びを味わわせたかったのです。でも、これは先生の手が余計にかかることなので、本当に面白いと思っている人でないとなかなかできないですね。

■ 野依良治教授
人間の知恵には、体系的に整理された「形式知」と、そうでない「暗黙知」があります。学校教育は形式知が中心です。最近は、学校教育を重視し過ぎている傾向があるのではないでしょうか。中学で理科、あるいは大学で物理を習えばそれだけで生きる力がつくとは思えない。自然に接して、暗黙知をもっと身につける必要があるのではないでしょうか。

大きなスケールの仕事をしている方に、地方出身の方が多いのではないかと感じています。それはどこが違うか。「自然で育った」という点が大きい。Sense of wonderをいかに持ち続けるかが大事ですね。小さいときに、十分に自然に触れて土台をしっかり育んでおかないとだめだと思うのです。

 ピエール・レナ教授 :世界を代表する天文学者の一人
柔らかく自然に接し、注意深く観察したりする。「自然のすばらしさに深く感動する心」(Sense of Wonder)がすべての中心にあると思います。好奇心というのは自然な現象です。でも、年齢が増すにつれて失われていく傾向にあります。現象を皮相的に扱う傾向にあるからです。先進国と途上国で、15歳の子どもたちの科学への興味を調べますと、前者はとても低く、後者はとても高いのです。大変きれいな分布を示します。

先進国の子どもたちは、科学情報にさらされることが頻繁で、ある種の麻酔をかけられたような状態です。一方、途上国の子どもたちの科学への期待はとても大きい。「どうして?」「どうやって?」と、Sense of Wonder、すなわち好奇心が尽きないのです。

■ イラン・チャンバイ教授 :ノーベル賞受賞者達をうならせる天才的な科学者・教育者
子どもたちの「自然な好奇心や創造性」を小さいころから育むことは極めて重要です。ただ、それがどのように実際に意味のある形で実行できるかが、問題だと思います。統計学的に定型な発達をしつつある子どもたちは、生物学的は生存力の一つとして、先天的に好奇心を備えています。つまり、学習の準備をし、そして常に学習し続けるようにできているのです。その一方、両親や保育者・教師たちに大変依存しています。

開けた好奇心を大学に入ってから育むのは極めて難しい。スタンフォード大学などの特に優れた学生たちを教えてきましたが、その経験の中で痛感した問題でもあるのです。幼いころこそ極めつけで、個性に関するすべての発達が決定的になるからです。両親や教師たちも「好奇心」を示し。学習することや理解することの楽しさを、子どもたちに自ら示すことが必要です。ただ答えを用意したり、やり方を教えるだけでは十分とは言えません。

子どもたちがいろいろと「聞きたがる」環境を常に確保することです。それは、子どもたちが周囲の大人たちと喜びを分かち合えると感じると同時に、自分の考えをどんどん言ってかまわないのだという気持ちにさせるからです。それによって、自分なりの考えを創れるようになっていきます。

■ 科学する心の七つのポイント
① 感動し創造する心
② 自然に親しみ驚き感動する心
③ 動植物に親しみ、命を大切にする心
④ ひと・もの・こととのかかわりを大切にして、思いやる心
⑤ 遊び、まなび、共に生きる喜びを味わう心
⑥ 好奇心や考える心
⑦ 表現し、やりとげる心

【参考文献】
幼児期に育つ「科学する心」小泉 英明/秋田 喜代美/山田 敏之【編著】小学館 2007年