[コラム]光った!光った!みんな光った!エジソン電球(福田 芳正)

真竹を使ったエジソン電球発光実験挑戦記(福田 芳正)

◆プロローグ◆

春先に、南区にある横浜市子ども植物園(以下、子ども植物園)から、依頼が舞い込みました。「エジソンが電球に使った、『京都の石清水八幡の竹』が園に植えてあります。この竹で、子ども達にエジソン電球を挑戦させたい。」

島田、大塚、三田、福田の4人を中心に取り組んでいます。これは、その挑戦記です。たくさんの方から関連情報の提供がありました。

エジソンは世界中の竹を試したそうですが、ものの本に書かれている様な試行錯誤の末に、石清水八幡宮の真竹にたどり着いたのでしょうか。しかも8~10年もので、10~1月末に伐採、地上1.5mより上の15節が最適と・・・。で、京都は、竹工芸のメッカ。職人がいい竹を知らないわけがありませんね。

テスト用の真竹は、東地区の会員から提供を受けました。真竹は細いものだと思っていましたが、幹径が8cm前後の立派なものでした。「孟宗竹より格段に粘りがある。」とのことで、繊維の強さが選定基準のひとつだったことに納得しました。

エジソンにあやかり、地上1.5mより上のものをもらい、1ヶ月ほど逆さまにして乾燥し、いよいよテスト。エジソン電球のフィラメントの竹は、太さが0.3mm長さ20~28cm程だったようです。繊維に沿って割りやすく、何本かは所謂「竹ひご」が作れました。さて、これの炭化です。「アルミホイールに巻いて空気を遮断し、ガスレンジで1分以上焼くとよい。」と書いてありましたが、加熱後、アルミホイールの灰がなかなか取れず、折角の「ヒゴ」がバラバラになってしまいます。そこで、太さ1cmの鉄パイプに、太めのものも含めて10㎝ほどの長さに切って入れ、丸めたアルミホイールで栓をして加熱してみました。台所のガスレンジで・・・。

猛烈な煙で、煙感知機が鳴りだし・・・家じゅう煙だらけ。でも、ちょっとねじれてはいるけれど、一見立派な炭ができました。4人で通電試験をしてみました。抵抗値が10Ω程のものを選んでみましたが、直流30Vでも電流が流れません。接点では時々火花が出ています???

◆光った!◆

直流30Vでも光りません。交流30Vでもだめ。でも、接点では時々火花が出ています???5V上げてみました。突然、明るく光り、あっという間に焼き切れてしまいました。この現象は、いったい何なのでしょうか??

炭素に詳しい、小林伸さんによると、低い温度で炭化させたものは、ごく表面だけ電気が流れるようになっていて、電圧を高くして強制的に電流を流すと「暴走」と呼ぶ、一気に電流が流れる状態になる。それは、炭の温度が上がって、結晶化が進むからで、暴走が始まった刹那に電圧を下げるとよいとのこと。竹を理想的な炭の組織にするには、1,200℃以上で焼くとよい(それ以上にすると鉄は熔けてしまう)が、空気中の窒素と反応したり、パイプの鉄を取りこむので、特殊な窯材で作った容器が必要になる。ただし、高温で長時間熱すると結晶化が進みすぎ、電気が流れなくなる、との説明でした。

ここまで突き詰めたエジソンは、やはり凄いですね。鉄パイプを短くして、ガスレンジの炎に全体が当たるようにしたら950℃まで温度が上がり、20Vで光るようになりました。電圧を上げると明るくなり、下げると暗くなる。でも、通電をやめても光っています・・・。窒素雰囲気中で光らせれば、長持ちするでしょうが、アスピレーターでの空気との置換が上手くいかず、また手間がかかって参加予定の10組をこなせそうもないので断念しました。焼き切れた後、瓶の内側に水滴が付きます。これも、低温での炭化のため、竹の繊維であるセルロースの水素が残っていて、空気中の酸素と結合して水ができるからでしょう。

子ども植物園の美山さんから、「ここまで経験できれば、子どもたちは十分満足するでしょう。予定を早めて、10月23日に講座を開きませんか。」後日談です。この10月23日は、「あかりの日」で、エジソンが竹フィラメントに替えて、綿フィラメントを世に出した日だそうです。右上につづく美山さんがぽつりと一言。「なぜ電気を流すと光るのかしら?子どもたちも知りたいでしょうね。」

◆光った!光った! みんな光った!◆

2015年10月23日の子ども植物園の講座には、19組の応募がありました。定員は10組。9組の親子さん、ごめんなさい。長さ6.5cmの細かく割ったマダケを、太さ1cmの鉄パイプ(実は、傘の柄)に詰めて、両端をアルミフォイルの球で塞ぎ、いよいよ加熱です。まずは室外で猛烈な煙を出し切り、室内で高温に加熱。なかなか赤くならないのを、お父さんお母さんにフォローしてもらいながら辛抱強く火にあぶり続けていました。冷える間、石清水の竹のこと、エジソンの話、フィラメントの歴史など。

島田さんの話は時々脱線して、試料が冷めているのも気が付きませんでした。パイプから取り出し、あまり曲がっていない、よさそうなものを実験装置にセットし、いよいよ点灯実験です。初めてのスライダック(尾崎さん保有の、交流電圧変換器)の操作も難なくこなし、20Vを超えると光りだしました。

そのたびに沢山の拍手! 中には、電圧を高くして『白熱電球』になったものも。これ、ものすごく明るかったですよ。 全員2回とも成功!! 太いのを選んだり、2~3本取り付けてみたり。みんなチャレンジ精神が旺盛でした。使った実験装置をお土産にしました。家で、シャープペンシルの芯で実験できるように。太さや柔らかさなど、いろいろな芯で実験してくれることでしょう。

島田さんの「天才のはなし」で締めくくりました。人工知能に勝つ方法など、みなさん、笑ったり、うなずいたり、真顔になったり・・・。4人でこの半年取り組んできたエジソン電球。子どもたちが目をキラキラと輝かせ続けてくれた、2時間のチャレンジ講座が、無事終わりました。 おしまい!

◆子ども植物園スタッフの皆さまから届いたメッセージ◆

子ども植物園のスタッフの皆さんから届いたメッセージです。

素晴らしい講座をありがとうございました。「エジソンのマダケで点灯実験」、10組の小学生親子が参加したこの講座を終えた直後、私は感動していました。100%点灯したこと、パーフェクトな講座の進行をしていただいたことはもちろん、科学者のように真剣で楽しそうなこどもの表情を見ることができたからです。平成28年2月、電球を作ることは植物園職員だけでは難しいと思った私は、漠然と、しかし確信を持って「おもしろ科学たんけん工房」さんなら何とかしてくれると、強引なお願いを申し出ました。

4月には、早くも手づくりの実験装置を携え皆さんが経過報告に来てくださいました。竹のフィラメントが通電すると赤くなりました! 集まった職員から拍手と歓声があがりました。しかし、まだまだ点灯は不安定で、どんな要因がネックなのか、到達目標をどこにするのか、課題はたくさんありました。陰ではどんなに多くの労力で工夫していただいていたことでしょう。にも関わらず私は「小学生ができるレベルで」「乾電池で光らせたい」「実験装置は全員に持って帰ってもらう」等々勝手な要望を並べました。

念のため参加者募集のチラシに「うまくいかなくてもめげない。何度でも挑戦する、工夫する。それこそがエジソンに学ぶこと!」の文言を入れました。その後も改良や試行を重ね、10月講座直前には時間も長く安定して光り、本番を待つのみとなりました。さすがです。私はワクワクしてきました。どもたちはこの貴重な経験をきっと忘れないでいてくれることでしょう。島田さん、大塚さん、三田さん、福田さん、本当にありがとうございました。

●参加者の声
・炭にして光るのがとても不思議でした
・期待以上に素晴らしい講座でした

●講座の様子
・親子でとても楽しい時間を過ごせました
・炭がおいしかった(食べた子がいました!)

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