科学する心を育む第一歩は、子どもたちが自然の事象に素直に感動すること(山田 敏之)

たんけん工房設立10周年を祝す

安田光一さんと親しく接するようになったのは、私が平成10年にソニー中央研究所から学校法人ソニー学園湘北短期大学に移ったときでした。安田さんはその直前まで長らく同学園の法人本部長という要職にあり、後進に道を譲った後もしばらく後見の役を務めておられました。その安田さんから子どものための科学教室を開きたいという構想を聞いたのがつい昨日のことのように思われます。私も科学技術の世界に身を置く者の一人として、子どもの科学教育には多大の関心を持っていましたので、即座に賛同し協力を約しました。

平成14年におもしろ科学たんけん工房がNPO法人化された際には、及ばずながら理事に名を連ねさせていただいたのですが、その当時は理事長・学長として短大経営に没頭していたため、実際には何の手助けもできず、遠くから声援を送るのみでした。しかし、安田さんの真摯な熱意は志を同じくする多くの人々を動かし、活動の場は着々と広がって、10年を経た今はしっかり地域に根をおろした大きな存在に成長しています。安田さんはもとより、活動を支えて来られた皆様方のご努力に深甚の敬意を表します。

私は財団法人ソニー教育財団が主宰する科学教育振興事業にも関わりを持ってきましたが、こちらは幼稚園・保育園や小中学校における科学教育の優れた実践を顕彰し、その普遍化を図るものです。ここで私が学んだのは、科学する心を育む第一歩は、子どもたちが自然の事象に素直に感動することであるという思想でした。科学実験で全く思いがけない発見をしたときの驚き、あるいは何かを自分の手で作り出し、それが期待どおりに仕上がったときの喜び、それらは間違いなく未来の科学者、技術者を生む原動力となるものです。

おもしろ科学たんけん工房の活動はまさにそうした感動を子どもたちに与えるものといってよいでしょう。科学技術立国という国是とはうらはらに若者の理科離れが云々される昨今、こうした草の根活動はますます重要性を増していると信じます。

設立10周年を祝し、これまでの実績を基盤としてさらなる発展を遂げられることをお祈りいたします。そしてここで育った子どもたちの中から、未来を支える優れた理系人材が次々と生まれ出ることを心から願っています。(山田 敏之 元ソニー株式会社中央研究所長)